2つの壁を乗り越えた手書き地図で、誰かの一日を照らしたい

夜に一人、地図をながめる。

グラスに酒をそっと注ぎ、ちびちびやりながら、まだ見ぬ街角を想像する。

これが僕の、最高の娯楽なんだ。

旅先で手に入れた手書きの地図なんかだと、心の奥から火がつく。

紙の端に描かれたヘタクソだけど味のあるイラストや、裏道っぽい細い線に、妄想が暴走し始める。

中でも僕の心をぶち抜いたのは、関ヶ原の地図だった。

戦の日の情景が、地形と一緒にグイグイ浮かび上がってきた。

あっ、ここで家康がぐいっと前進して、そこへ小早川秀秋がドドドっとなだれ込んで──

三成が総崩れになった場所が、まさにこの辺か!?

……と、夜な夜なひとりで地図を前に熱くなっていた。

地図を描くのが夢だった

僕もいつか、誰かの心を燃やす地図を作ってみたい。

ずっと、そう思っていた。

でも、この想いには2つの分厚い壁が立ちはだかってた。

壁① 「理系脳」の落とし穴

僕はバリバリの理系人間。

地図を作るスキルはある。距離も方角も正確に仕上げられる。

けど──

完成するのは、無味乾燥した図面。

情報としては正しいけど、情熱はまったく伝わらない。

あれは地図というより、もはや建築資料だった(笑)

壁② 見てくれる人がいない問題

もうひとつの壁、それは「見てくれる人の不在」だった。

自分で作った地図を、自分でながめてニヤニヤする──

それも悪くない。でも、どうせなら誰かの役に立つものでありたい。

最近、この壁が少し揺れ始めてる。

たとえば、日頃よく通ってる喫茶店に、ウォーキングコースに仕立てた地図を置かせてもらったらどうだろう?

地図を片手にウォーキングして、ゴール地点がそのお店。

歩いたあとにコーヒーやお酒で乾杯してもらえたら最高じゃないか。

頭の中でその光景がパッと浮かんで、いてもたってもいられなくなった。

超特急で試作品を作り、いつもの喫茶店に向かった。

「こんな地図、置かせてもらえませんか?」と相談。

うん、なんとかなるかもしれない。

第一の壁を打ち破った方法

人の心を動かす地図って、どう作ればいい?

僕の武器は、Adobe Illustratorを少し使えること。

図面なら瞬殺できる。でも、殺風景なだけの地図じゃ意味がない。

筆っぽい線や手書き風フォントも試してみた。けど、なんか違う。

ちゃんと整ってるけど、魂が入ってこない。

しばらく悩んでた。

そしたら──

アイデアの女神が、唐突に舞い降りた。

「あ、なぞればいいんだ」

そうだ。図面の地図を薄く印刷して、その上からペンでなぞればいい。

線も文字も、自分の手でなぞる。

一筆ずつ、自分のリズムで。

見た目は整っていても、その中に、ちょっとした揺らぎや息づかいが宿る。

だからこそ、ちゃんと人間味が伝わる。

しかも、手描きの弱点だった「やり直しが効かない問題」もクリアできる。

レイアウトはIllustratorで調整できるし、イラストも自分で描ける。

地図の片隅にそっと、案内文を添えてもいい。

すべて納得できたら、最後に丁寧にペンを入れる。

これは、僕にとっての「新しい地図の描き方」だった。

さあ、火を灯す地図を描こう

こうして2つの壁は、僕の手で崩れ落ちた。

いま、目の前にはペンと紙と、薄く印刷された地図の下地。

いよいよ、僕の手書き地図づくりが始まる。

この一枚に込めるのは、僕の中でくすぶっていた夢の火種。

誰かがこの地図を手にして、ふらっと歩き出してくれたら。

小さな発見にワクワクして、お店でにっこり乾杯してくれたら。

その瞬間、僕の地図が「誰かの一日」を照らす光になる。

2025-05-12|
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