ハガキの中に宇宙があった——己書デビュー@名古屋市民ギャラリー栄

【前回までのあらすじ】

己書の展覧会を来月に控え、まだ慣れない水彩画に奮闘しつつ作品づくり。上手く描けた3枚を先生に託し、当日を待つことに——。

都会のビルに潜むアートのオアシス

己書を始めて3ヶ月。ついに僕もアーティストとしてデビューした。

会場は名古屋・中区役所ビルにある名古屋市民ギャラリー栄(7・8F)。

今日から始まった己書の展覧会は、先生の先生が主宰で、お弟子さんの作品がずらり。

その末席に僕も加えていただける、なんともありがたい話だ。

ギャラリーに入るの、正直ちょっと緊張していた。

でも在廊していた先生が、いつもの明るさで「あら、よく来てくれたね!」。その一声でホッとした。

入り口から、己書ワールド全開

まるで万華鏡のように壁一面に並ぶ作品。入り口付近は先生方のコーナーで、どれも美しく整っている。

パイナップルのリアルスケッチハートの木のメルヘンな一枚……見入っているうちに気づく。

「己書の文字はある法則に沿って似てくる」と思っていたけれど、全然違う。

丸っこい字、菱形に収束する字、線の呼吸感までバラバラ。僕の先生は丸くやわらかな文字。それがオーソドックスだと思っていたが、書き方ひとつで世界観はまるで別物だった。

先生の「悟りの窓」——人柄がにじむ一枚

その中に、先生の作品があった。

「悟りの窓」

丸窓の向こうに広がる色彩は、どこかやわらかく上品で深みがある。

「あ、先生のだ」と一目でわかった。

明るくて、丁寧で、上品で、気さく。それでいて、心に響く哲学的なメッセージがこもっている——その人柄がそのまま色紙になっていた

己書は、描く人そのものがあらわれる。胸の奥でストンと腑に落ちた瞬間だった。

個性が爆発するお弟子さんたち

中ほどからは、先生ごとのお弟子さんの展示。ここが圧巻だった。

黒ハガキに金で描く十二単の女性、その場でスケッチしたみたいなサンマ日本の妖怪が暴れるハロウィンススキ原の寂寥をにじませる水墨……。

見どころのない作品なんて、一枚もなかった。優劣とかじゃない。人それぞれの個性があらわれていたんだ。

「これが己書の世界か」

想像の何倍も何十倍も奥が深い。ハガキの中に宇宙がある——いや、ハガキを通して世界を見ると言ったほうが近いかもしれない。

背筋が伸びた。同時に、この道で間違ってなかったとも思えた。「もっと描きたい!」胸の内が熱くなる。

立ち尽くさせたジュニア

最も心に刺さったのはハガキ3枚を使った2連作

「ジュニア」と名札があり、苗字が同じだから、たぶん兄弟。

恐竜に子どもが乗る一枚と、ブレーメンの音楽隊をユーモラスに描いた一枚。

ただ立ち尽くした。「己書って、ここまで自由でいいんだ」

先生がそっと教えてくれる。

「人それぞれみんな違うんだよ。同じお手本を見て描いても、全然違うから面白いんだよね。師範だって30人展示してるけど、30人ともみんな違うからね」

5歳の一撃——楽しく描こうの核心

先生が目を輝かせて見せてくれた、5歳のお孫さんの作品(名前が書かれていたので、写真の掲載は控えるよ)。

たぶん似顔絵と動物が描かれている。自由でぶっ飛んだカラー、伸び伸びした筆づかい。

大人が「あーだこーだ」と試行錯誤して描くのもいいだろう。でも、己書の心髄って「自分らしく楽しく描こう!」ってところにあるんじゃないかな。

先生は、お孫さんの作品を通して、そんなことを伝えたかったのでないかと思ったんだ。

僕の作品は黒バック3割増し(当社比)

もちろん、僕の作品も展示されていた。

黒い紙に飾られると、下手くそも3割増しで見栄えする(当社比)

始めて3ヶ月での展示は正直こそばゆい。隣の先輩方の作品はまぶしく見えた。

でも、これからの伸びしろだ。まあいいか、僕のことを知っているのは先生だけだし(笑)

ありがとう、そして次の幸座へ

市役所ビルに来て、パイナップルや恐竜やハロウィンに出会う——そんな日が来るなんて思わなかった。

先生、拙い作品を展示させてくださってありがとうございます。

そして素晴らしい世界を見せてくださって感謝。次の幸座、またよろしくお願いします!

2025-09-03|タグ:
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