
オタマトーンって、見た目はゆるい。
あの顔で、パネルを押せば音が出る。
だから最初は、もっと気楽な楽器だと思っていた。ところが弾き始めて10日ほどで、その考えはすっかり変わった。
これ、おもちゃみたいな顔をしているくせに、楽器としてのポテンシャルが高い。
うまく弾けた時は、ひとりでニヤニヤしてしまうくらい楽しい。
その一方で、初心者にはなかなか厄介な壁もある。
まず、指が言うことをきかない

小指をスライドさせると、スムーズに動かないのだ。
ガッ、ガッ、ガッと引っかかる。まるで自転車で小さな段差に何度も乗り上げるような感触。
こうなると、音もきれいにつながらない。ラジオでチューニングを合わせる途中みたいな、途切れ途切れの音になる。
これは困った。
そんな時、明和電機の土佐社長が解決策を紹介してくれていた。
医療用のポアテープを貼るといいらしい。
救世主はポアテープ

ポアテープは、通気孔があいていてかぶれにくい医療用テープ。ドラッグストアで売っていると知って、さっそく買いに行った。
売り場には12ミリ幅と24ミリ幅の2種類があった。両方買ってみて結論から言うと、幅はどちらでもいい。

まずは小指に巻いて弾いてみた。
たしかに、パネルと小指の間で起きていた「引っかかり」は減った。
ただ、思っていた方向とは少し違った。ツルツルと滑る感じではない。むしろ、滑りそのものは少し重くなった印象がある。
効いている。けれど、違う
あれ?
土佐社長おすすめの方法なのに、僕が欲しかった感触とは違う。

そこで今度は、マスキングテープを指に巻いて試してみた。
これはよく滑る。
少なくとも「滑りやすさ」だけでいえば、ポアテープよりマスキングテープのほうが上だった。

ここで、ふと立ち止まった。
本当に僕が欲しかったのは、「もっと滑ること」だったんだろうか。
そこで、あらためてオタマトーンのスタンダードを弾いてみた。
掻くように弾くスタンダード

すると、別のことが見えてきた。
スタンダードは4本指で弾き分けるような余裕はない。
パネル自体の幅も狭くて、音が鳴るスイートスポットは中心部だけ。音を鳴らすハードルがやたらと高い。
なかなか演奏者泣かせの作りだ。
その結果、人差し指をパネルに対してまっすぐ当てて、爪でカリカリと掻くような感じで弾くと扱いやすい。

ところが、この奏法には別の弱点があった。
今度は、爪とパネルの間に適度な引っかかりが足りないのだ。
指がスッと滑って、狙った場所で止まりきらない。押さえているつもりなのに、少しズレて違う音が出る。
欲しかったのは、滑りやすさじゃなかった

ああ、そうか。
僕が困っていたのは、滑らないことだけじゃなかった。
むしろ本当に欲しかったのは、狙ったところでピタッと止まることだったのだ。
なるほど。
ポアテープは、滑りをよくするためというより、指を安定させるために使うのか。
そこで今度は、ポアテープを小さく切って、人差し指の爪先に貼ってみた。

弾いてみる。
おっ、いいじゃん。
それまでは、押さえていても少し滑って、不安定な音になっていた。
それが、適度に止まる。音がピタッと定まる。音程が安定する。
そうか、逆だったのか

ポアテープは、小指を滑らせるためのものとして使うより、
人差し指を安定させるために使ったほうが、今の僕にはしっくりきた。
土佐社長の言っていたことが違ったわけじゃない。僕のほうが、まだ意味をつかみきれていなかったのだ。
またひとつ、オタマの階段を登った気がする午後だった。










