
なぜ、こんなものを商店街の中心に置くのだろう?
20世紀少年のロボット、進撃の巨人、空中ヤンキー、オズの魔法使いなどなど。謎のオブジェに満たされている大曽根商店街に、一際意味の分からない建造物がある。
ギロチン。
商店街の中心にある広場「ドロシーの泉」の入り口に、それは建っている。
大きさは、パッと見で高さ5メートル弱、幅3メートルといったところ。一見すると門のようである。
ところが、見上げると話が変わる。金属の刃がギラリと陽の光を反射して、こちらを見下ろしていた。
ギラギラと光る刃が、スパーンと真下に落ちていく。そんな光景が脳裏に浮かんで、僕の背筋が冷たくなった。
平和な風景と、あまりに噛み合わない

ドロシーの泉は、商店街の平和と繁栄を象徴する場所である。
散歩する人たちや、学校帰りに騒いでいる子どもたち。最近では、サックス侍が演奏する「聖地」にもなりつつある。
そんな穏やかで平和な日常を、ギロチンの刃が見つめていたのだ。
どう考えても、景色に対して物騒すぎる。
ちゃんと作り込まれているのが、なおさら怖い

そこで、ギロチンをよく調べてみた。
頑丈な石造り。お墓に使われる高級な御影石だろうか。灰色をしていて、磨いてある部分は鏡のようにツルツルとしている。
構造は、2本の柱と梁。それぞれの部材に継ぎ目はない。
つまり、このギロチン、ありあわせの端材で作られたものではない。大きな御影石を調達し、それなりに金をかけて作られたものなのである。
だからこそ疑問が膨らむ。
商店街のど真ん中に、なぜわざわざ金をかけてまでギロチンを建てる必要があったのか。
オズの魔法使いでも説明がつかない

大曽根商店街は「オズの魔法使い」をテーマに街づくりをしていた。
その一環で、オズに出てくる何かを置いたのでは、とも思った。ところが、そもそもオズの魔法使いにギロチンは出てこない。
地元の人に聞いても、誰も知らない

気になって、商店街事情に詳しそうな人に話を振ってみた。商店街でお店を出している方、商店街に古くから住んでいる方。
すると、みんな同じような反応をする。
記憶の奥から何かを引っ張り出そうとして、しばらく時間がかかる。ようやく口を開いたかと思うと、答えはたいていこうだ。
「えっ、ギロチンなんてあったの? なんでそんなのがあるんだろ?」

つまり、何も知らないのである。
地元で生まれ育った人にまで、存在すら知られていないんだよね。
他のオブジェについては、商店街発展のために行政から助成金が入り、そのお金で作られたと聞いたことがある。そのどさくさに紛れて、ギロチンも作られたのではないか。
他のオブジェは、いかにも「見てください」と言わんばかりに目立っている。
その点、このギロチンは一見すると門のようにしか見えない。だからこそ、誰にもギロチンだと認識されないまま、いつしか人々の記憶から忘れ去られていったのかもしれない。
振り返った瞬間、恐怖に包まれた

そんなことを考えながら、ドロシーの泉から帰ろうとした。
その時だった。
少し離れたところから、ふと振り返る。
ずらっと並ぶギロチンの列。
やっとドラゴンを倒したと思ったら、その後ろにまたドラゴンがずらっと並んでいた。そんな背筋が凍る恐怖感が走った。
あまりの驚きに時間を忘れて、しばらく呆然としていた。
ドロシーの泉は、ギロチンで囲まれていた

なんと、ドロシーの泉はギロチンで囲まれていたのだ。
石造りの囲いが東側と南側に10基並んでいる。刃こそ付いていないものの、形はまるでギロチンと同じ。門のような構造物が、ずらりと並んでいた。
石の色は、ギロチン本体の御影石とは違う黄色っぽいような白色。さすがに全部を御影石で揃えるには予算が足りなかったのだろうか。
謎が謎を呼ぶってのは、本当だった。
僕の頭に浮かんだ、2つの仮説

ここまで来ると、僕の頭の中には2つの仮説が浮かぶ。
ひとつ目。
実は、かつて大曽根には尾張藩の秘密の刑場があった。数え切れないほどの人の首が落とされた。その魂を鎮め、この刑に携わった人たちの労に報いるため、商店街繁栄の祈りも込めて建てられた。そんな、とんでもない歴史が眠っているのではないか。

もうひとつ。
最初は、ただの石造りの門を作っていた。ところが、それでは面白くない。誰も気づかないし、刃をコソッと付けちゃう? バレたらテヘペロで済ませよう。そんな遊び心が暴走した結果なのではないか。
どちらも、まともとは言い難い。
だが、まともじゃないものが商店街のど真ん中に実在している以上、こちらも少しは頭をおかしくして考えたほうが辻褄が合う。
忘れ去られたものの中に、真実は眠っている

忘れ去られたものにも物語がある。いや、むしろ、真実が眠っている気がするんだよね。
大曽根商店街ギロチンミステリー。
さて、聞き込み開始かな。





