〜僕のいつものランニングコースが、今日はまったく違って見えた〜

名古屋、大曽根駅。
地下鉄の4番出口に、誰にも知られずひっそりと立つ案内看板。そこにはこう書かれていた。

あれ?どこかで見た名前…。
なんとなく気になって、近くの看板をじーっと見つめる。コース図も確認してみる。
そして僕は驚いた。
──これ、いつものランニングコースと、ほとんど同じじゃないか。
でも、何かが引っかかったんだ。
走ってるときは通り過ぎてた「何か」が、今日は妙に気になった。
「歩いたら…なにか違って見えるかもしれない」
その違和感に背中を押されるように、僕はコース図をダウンロードして、近所のコンビニでプリントした。
地図を手にした瞬間、不思議と気持ちが変わる。「ただの移動」が、「旅」に変わった感じがしたんだ。

※ちなみに史跡散策路を歩くときは、事前に紙の地図を印刷して持っていくのがおすすめ!
スマホ見ながら歩くと危ないし、何より「探検」してる気分が出るから。
さあ、僕のいつもと違う小さな冒険が、ここから始まる。
1️⃣ 善光寺街道道標

──「この石があるだけで、景色が変わるんだ」
大曽根駅から地下道を抜けて、商店街に向かう階段をトコトコと上がっていく。
道路の脇に、ひっそりと石碑がたたずんでいる。

江戸中期の1744年に建てられた「善光寺街道道標」。
この場所が恵那まで約60キロ続く善光寺街道の分岐点だったことを示している。
「下(した)街道」──庶民が使った、ちょっと裏道っぽいルート。
旅人が、商人が、あるいは武士が、ここを行き交っていたのかもしれない。

石は風雨にさらされて、表面は削れ、文字も薄れてる。
でも、その削れた感じがなんともリアルだ。時間の重みを感じる。

この道標、今では居酒屋が立ち並ぶ一角にポツンと立っている。
「この石、酔っ払いに蹴っ飛ばされて壊されないか心配」って、つい思ってしまうくらい(笑)
けどその心配ができるのも、今も生きてる町ってことなのかもしれないね。
2️⃣ 大曽根商店街

──「さびれてるんじゃない。再生中なんだ」
道標を後にして、僕は勝手知ったる大曽根商店街へと歩く。
毎日のように通っているこの道。でも今日は、ちょっと目線が違う。
ここはかつて、名古屋城北の唯一の関門だったという。
陶器、生糸、木綿…多くの商人が行き交って、たいそうにぎわったらしい。

でも今は…
シャッターの閉じた店が目立つ。
通りには人の姿もまばらで、ちょっとさみしい感じがする。
…と思っていたら、視界にパッと明るいものが飛び込んできた。
歩道沿いにずらっと並ぶ、大きな鉢植えの花たち。

色とりどりの花が咲いていて、手入れも行き届いている。
ああ、そうか。
さびれてるんじゃない。ここは今、「生まれ変わろうとしてる」んだ。
そう気づいたら、景色が変わった。
シャッター街が再生中の現場に見えてきた。
こういうのって、通り過ぎるだけだったら気づかないんだよね。
ゆっくり周りを見ながら歩いたからこそ、見えてきたものがある。
3️⃣ 山田天満宮

──「ザワザワ…って音が、心の奥まで響いてきた」
住宅街を抜けると、まっすぐな道の先に鳥居がドンと構えていた。
その姿に、歩く足が自然と止まる。吸い寄せられるように、僕は山田天満宮の境内へと入っていった。

ここは、名古屋三大天満宮のひとつ。学問の神様、菅原道真公を祀っている神社だ。
境内に入ると、空気が変わったのがすぐにわかる。
ザワザワ…
楠(くすのき)と梅の木が風に揺れて鳴らす音が、耳じゃなくて胸に響いてくる。
木の間を飛び回る小鳥たち。
お参りに訪れていた人たちが、丁寧に深く頭を下げている姿。
派手さも観光地感もない。だけど、ここには人を優しく包む「なにか」がある。

不思議と心が落ち着いて、なんだか立ち去りがたくなる。
しばらくじっと、神社の空気を吸い込んで、背筋を伸ばす。
…でも、次の史跡が呼んでいる。
僕は深呼吸をして、境内を後にした。
4️⃣ 常光院(じょうこういん)

──「この鐘の音、400年前と同じかもしれない」
山田天満宮のすぐ隣にあるお寺、常光院。
門をくぐると、右手にどっしりとした鐘撞堂(かねつきどう)が目に入る。

このお寺が建立されたのは、江戸時代初期の1624年。
約400年も前のこと。
「この鐘の音も、昔と変わらず響いてるのかな…」
そう思うと、静かな境内にいるだけで、時代を超えた物語の一部になったような気がしてくる。

このお寺は、昔、この地域が洪水に苦しめられていたとき、人々の心の拠り所になっていた場所らしい。
なるほど、だからなのか。
境内の空気が、どこか支える力を持っているように感じるんだ。
5️⃣ 山田重忠の碑と、名古屋十名所
──「名所って、説明されないほうが想像ふくらむよね」
正直に言うと、この碑だけは知らなかった。
「山田次郎重忠舊里(ふるさと)の碑」。山田幼稚園の門の前に立っている。
その隣には「名古屋十名所」の碑まである。

ここ…そんな名所だったっけ?
「山田重忠って、誰?なんか偉い人?」と、頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
ちょうど幼稚園のスタッフさんが通りかかったので、勇気を出して声をかけてみた。
「すみません、この碑の山田重忠さんって、どんな人なんですか?」
すると、やや苦笑いしながら
「山田重忠公ですか…うーん、それが、ちょっと…」
名古屋十名所について尋ねても、首をかしげながら
「何か他にも、きっと名所があったんでしょうねぇ」と。
……うん、たぶん、あったんだと思う(笑)
でも、それでいい気もする。
説明がなければ、想像できる余白がある。
昔の人がここを名所とした理由を、自分なりに考えながら歩いてみるのも楽しいよね。
6️⃣ 木ヶ崎(きがさき)公園

──「この15本の若木に、希望を感じた」
常光院から北へ行き、名鉄瀬戸線沿いを歩く。この付近の桜の名所と知られている木ヶ崎公園に着いた。
公園の真ん中には、まだ若い桜の木たちが青々とした葉を広げていた。
1本、2本、3本…数えてみたら15本。
近くの碑にこう書かれていた。
「桜継承プロジェクト」

──昭和25年、戦後の混乱の中で、地元の若者たちがこの公園に桜を植えた。
あれから69年。その桜が老木となった。
「次の世代に桜の名所を引き継ごう」。今度は令和の若者たちが新たな苗木を植えたという。
僕は、そっと若木に手を触れてみた。
すると、ふと心に浮かんだ。
「この桜が満開になる日を、僕もこの目で見てみたい」
この若木は、想いをつなぐバトンなんだよね。
「若者の情熱が、街を変えていく」
そのことを、はっきりと感じた瞬間だった。
7️⃣ 長母寺(ちょうぼじ)

──「異世界に通じる階段って、本当にあるんだな」
公園を抜け、長母寺の参道へ。
最初に目に入ったのは、33段の石段。

その奥に、静かに構える山門。
空気が変わった。音が消えた。世界が切り替わるような瞬間だった。
ゆっくり階段をのぼっていくと、心拍数が少しずつ上がっていく。
それが運動のせいなのか、緊張のせいなのか、よくわからなくなる。

門をくぐると、そこは──
まるで森の中にぽっかり浮かぶ異世界だった。
鳥のさえずり。木々の葉が揺れる音。
それ以外、何も聞こえない。
本堂の前に立つ。
僕の影だけが、そっと人の存在を証明していた。

このお寺は、あの山田重忠公が母のために建てたという。
その説明を読んだとき、胸の奥がじんわり温かくなった。
母を想う気持ち、時代を超えて、今もここに息づいているんだな。
8️⃣ 矢田川

──「自然って、やっぱりすげぇ」
長母寺を後にして、コースには載っていないけれど、僕の中ではこの旅のハイライト、矢田川へ。
走ってるときは一瞬で通り過ぎるこの道も、
今日は歩いてるから、風の匂いとか、花の色とか、すごく細かく感じる。

河川敷に広がる菜の花。
鉄橋が目の前を横切り、電車が通り過ぎる。
子どもたちの声が反対側の岸から聞こえてくる。
ふと川を見たとき、気づいたんだ。
流れが変わってる。

こないだまでは何もなかった場所に、浅瀬ができて、水の筋が複雑になっていた。
「ちょっと雨が降っただけで、川のカタチが変わるんだな…」
人間だったら、工事だなんだって、何ヶ月もかかる。
でも自然は、サクッとやってのける。

なんかもう、「すげぇな」って、ただそれだけ。
自然って、やっぱり生きてるんだなって思った。
9️⃣ 三階橋ポンプ所・矢田川伏越樋(ふせこしひ)

──「川の立体交差?名古屋、やるじゃん」
ここは、庄内川の水を堀川へ送るための秘密の仕組みがある場所。
「伏越し」──なんだそれ?って思ったけど、要は
川の下にトンネルを掘って、水を通すシステム
つまり、庄内川の水を、矢田川の下をくぐらせて、堀川に流してたってわけ。
……すごい発想だよね。
川の立体交差って。電車かよ。

なぜそんなめんどくさいことを?
理由は、矢田川が「天井川」で土砂が流れ込んで、維持費がかかるからだそう。
「じゃあ、トンネル掘っちゃおう!」って。
名古屋人、やっぱ合理主義だわ(笑)
堀の下に降りてみると、緑に囲まれた用水が静かに流れていた。
まるで山の中の渓谷に迷い込んだ雰囲気。

木漏れ日が水面をキラキラと照らして、鳥が飛び、魚が泳いでる。
ここ、名古屋のど真ん中だよね?
ちょっと、いやかなり驚いた。
ゴール:上飯田駅

──「史跡×自然×発見。これはちょっとした感情の旅だった」
気づけば、歩いた距離は6.6キロ。
コースの距離は4.8キロだけど、僕は行きつ戻りつ、なめるように楽しんだから少しのびた。
史跡ばかりが押し寄せてくるコースじゃない。

むしろ、途中の間──
矢田川を歩く約1キロの河川敷が、すごく良い「余白」になっていて、頭も心も整う。
そして何より、僕の心に一番刺さったのは──
「桜継承プロジェクト」
想いをつなぐ人たちの情熱。
それを目の前で見て、手で触れて、歩いたこの時間は、
ただの「街歩き」じゃなくて、感情の旅だった。
🏁 おわりに

街には、知らない物語がたくさんある。
でもそれは、走っているだけじゃ、見えない。
スピードを落としたときに、ふいに出会える。
だから、たまには立ち止まって、歩いてみよう。
あなたの近くにも、誰かが残した「情熱」や「願い」が眠ってるかもしれないよ。
◆山田重忠公についての記事はコチラ



