
「せー!!」
大曽根からほど近い、とあるスーパーでの出来事だ。
通路を歩いていたら、ベテランっぽい男性店員さんが、僕とすれ違いざまにそう元気よく声をかけてきた。
せー?
一瞬、何を言われたのか分からなかった。聞き間違いかとも思った。
けれど、その店員さんは、別のお客さんにも同じように「せー!!」と声をかけていた。
そこでようやく分かった。
あれはたぶん、「いらっしゃいませー!!」なんだ。それが省略されまくって、「せー!!」になっていたのである。
省略にもほどがある。
さすがに雑だろ、と思った。接客の言葉をそこまで削るのか、と。
昔から、言葉は削られていた
ただ、その瞬間、子どものころ通っていた空手の道場のことも思い出した。
組手や練習を終えて、相手に礼をする時、みんなで「した!」と叫ぶのである。
あれも最初は、何を言っているのか全然分からなかった。意味が分かったのは、空手から離れてしばらくしてから。
どうやら「ありがとうございました」の、最後の「した」だったらしい。
そういうことは、入門した最初に教えてほしい。
スーパーの「せー」と、道場の「した」。どちらも最初は意味不明なのに、現場ではちゃんと通じている。
雑に見えた言葉の正体
そう思いながら、カゴにお菓子やお酒をポンポン入れていたら、少しずつ見え方が変わってきた。
あれは手抜きというより、その場の速度の中で育った言葉なのかもしれない。
忙しい売り場で、毎日何百回も「いらっしゃいませ」を言う。そのうちに意味だけが残って、音だけが前へ走っていく。
その結果、生まれたのが「せー」だったと。
辞書より先に、現場が言葉を作る
言葉は、辞書の中で完成するんじゃない。
現場で削られ、癖づき、ときには原型を失いながら、それでもちゃんと生き延びていく。
だから僕はあの日、スーパーで変な声を聞いたんじゃなくて、言葉が進化している現場に立ち会ったのかもしれない。
今日も、僕の記事をお読みいただき、した!










