
江ノ島と大曽根。
絶対に交わらなさそうな2つの場所が、意外なものでつながった。
旅行明けの体を起こすために走る

3日間に及ぶ暴飲暴食の湘南旅行を終えた翌朝。
体が重い。
寝ているのか、起きているのか分からない。体の奥に、ドロッとしたものが残っている。
このダルさ、なんとかなりませんか?(笑)
そういう時は走ればいい。
汗を流して、体をシャキッとさせる。旅の余韻と食べすぎた重さを背負ったまま、僕は大曽根の街へ走り出した。
向かった先は、金虎酒蔵の隣にある「山田幼稚園」の一角。そこに建っている小さな地蔵堂である。
なぜ、そこへ行きたくなったのか。
話は、前日の江ノ島に戻る。
龍口寺の透かし彫りに震えた

湘南旅行の途中、江ノ電の江ノ島駅近くにある「龍口寺(りゅうこうじ)」に立ち寄った。
江ノ島周辺の人気観光スポット。正直に言えば、「とりあえず、行っとかないと」くらいの軽い気持ちだった。
ところが、実際に行ってみると、これが面白かった。
周囲から少し盛り上がった、小高い島のような地形。階段を上っていくと、立派な山門が見えてくる。
そこで目に入ったのが、山門に飾られた透かし彫りだった。

木を彫っているのに、まるで一枚の絵のように見える。
人物がいて、物語があって、場面がある。中国の古典が題材なのだろうか。見ているだけで引き込まれた。

案内文には、大坂の豪商が幕末に寄進したと書かれていた。
昔も今も、江ノ島は人を惹きつけてやまない場所なのだと思った。遠くから人が集まり、お金を出し、思いを込めて建物を残していく。
見たこのある象がいた

そうやってお寺をブラブラしていた時だった。ふと、本堂の柱の上あたりに目がいった。
そこに、見覚えのあるアイツがいた。
長い鼻をしたアイツ。たぶん、象だと思う。鼻を真横に伸ばし、牙を突き出しながら、どこか笑っているような顔をしている。

その瞬間、頭の中で大曽根の風景がパッと浮かんだ。
あれ、この象、大曽根にもいなかったか? 僕はその場で自分のブログを確認した。すると、やっぱりいた。
山田重忠公の居館があったとされる場所。その一角に建つ地蔵堂に、よく似た象の彫り物が飾られていたのである。
江ノ島で、大曽根を思い出す。
なんだ、この変なつながりは。その瞬間、湘南旅行の帰り道に宿題ができた。大曽根に帰ったら、あの象をもう一度見に行こう。
そう思いながら、僕は湘南から帰りの新幹線に乗っていた。
大曽根の地蔵堂で見比べる

そして翌朝。
宿題を抱えたままではいられない。
ランニングついでに、山田幼稚園横の地蔵堂へ向かった。
地蔵堂の前に立つ。
小さなお堂の左右に、彫り物が飾られている。
正面に獅子。横側には象。

龍口寺で見たものと同じように、獅子と象がセットになって左右対になっている。
サイズは違う。
大曽根の方は、拳より少し大きいくらいの小型。龍口寺の方は、両手で抱えられるくらいの大型だった。
けれど、形を見ていると、本当にそっくりだった。
長く伸びた鼻。牙の出方。顔つき。少しとぼけたような表情。
もしかしたら、同じ人が作ったのではないか。そんなことまで思ってしまうほど似ていた。
幕末の同時期に建てられたのでは?素人の無茶な仮説

もちろん、これは素人の暴走である。
地蔵堂には、いつ建てられたのか。誰が作ったのか。どういう理由でこの彫り物が飾られているのか。
そうした謂れを示すものは見当たらなかった。
だから、ここから先は完全に僕の勝手な仮説である。
龍口寺の山門にあった彫り物は、幕末に寄進されたものだった。そして大曽根の地蔵堂にも、よく似た象と獅子の彫り物がある。

もしかすると、この地蔵堂も同じくらいの時期に建てられたものなのではないか。
もちろん、飾りが似ているだけで年代を決めるなんて、かなり無茶な話だ。歴史に詳しい人が聞いたら、鼻で笑うかもしれない。
そんなことを考えながら見つめる地蔵堂は、昨日までとは少し違って見えた。
面白いのは、そこだった。
旅が地元の見え方を変える

湘南旅行に行かなければ、僕は大曽根の地蔵堂をこんなふうに見なかったかもしれない。
江ノ島で龍口寺の象を見たから、大曽根の象を思い出した。
旅先の景色が、地元の小さなお堂に光を当ててくれた。
遠くへ行くことは、遠くのものを見ることだと思っていた。けれど、旅はそれだけじゃないのかもしれない。
帰ってきたあと、いつもの街の見え方まで変えてくれる。見慣れた道の端にあるものが、急に気になり始める。昨日まで素通りしていた小さな彫り物に、物語の入り口が開く。

江ノ島と大曽根。
普通なら、並べて考えることのない2つの場所。
その間に、長い鼻をした象がいた。
地元のものをよく見ておくことは、旅の楽しみまで広げてくれるのかもしれない。
◆山田重忠公の居館跡に地蔵堂はあります:ただの幼稚園だと思った?900年前、そこは山田重忠公の本拠地でした。今は石碑しかないけど。

