
30年後の僕の姿を見たようだった。
先日、母の喜寿(77歳)を祝う食事会に行ってきた。
兄の発案で、金屏風が飾られた豪華な部屋に懐石料理と飲み放題。母は紫のちゃんちゃんこを着て、満面の笑み。

「次は2年後に88歳になるお父さんの米寿祝いだね」
そんなふうに笑い合える時間が、なんともありがたかった。
家族がこうして集まれるのも、あと何度あるんだろう。この瞬間を心に刻んでおこうと、僕も精一杯楽しませてもらった。
顔色ひとつ変えない、いつもの父

父は僕と同じで大の酒好きである。
歳を取ったとは思えないほど、顔色ひとつ変えずに飲んでいた。僕が酒を注文するたびに一緒に頼んで飲んでいる。つまり、30歳若い僕と同じ量の酒を飲んでいたわけだ。

そのうえ、相変わらず甘口の日本酒にはケチをつけたりしてね。
「ああ、いつもの親父だな」
そんなふうに見えていた。まさかこのあと、あんなことになるとは思いもしなかった。
兄と飲み直していた、そのとき
宴も終わって、兄と2人で飲み直すことにした。
子どものころを思い出して、ふざけ半分で兄に殴りかかったりしてね。
いい歳したおっさん2人が、妙に楽しくなっていた。祝いの余韻もあったんだろう。酒は進むし、気分も上がる。レモンサワーを片手に、すっかりご機嫌だった。
救急車で運ばれた、とLINEが来た
そこに、空気を一瞬で凍らせる連絡が入った。
母から連絡をもらった甥っ子から、兄にLINEが来たのだ。
父が救急車で運ばれた、と。
急性アルコール中毒。
その文字を見た瞬間、レモンサワーを持つ手が震えた。
さっきまで笑っていた空気が、スパッと切れた。頭の中で、宴会の光景が一気に巻き戻される。
僕と同じペースで飲んでいた父。顔色も変えず、いつも通りに酒の文句まで言っていた父。
そりゃ、飲み過ぎだ。
「飲ませすぎたな」と兄と頭を抱える
兄と2人で顔を見合わせた。
「飲ませすぎたな」
ほんと、そのとおりである。
こっちが注文するたびに父も飲んでいた。
僕が少しセーブしていたら、父もそこまで飲まなかったかもしれない。調子に乗ってガバガバ飲んでいた兄と僕は、そのまま反省会に突入である。
止めても飲む。それもまた父である
とはいえ、話しているうちに、もうひとつ別の現実も見えてきた。
「飲むなと言っても、飲むんちゃう」
それもまた、そのとおりなのだ。
父は、そういう男である。
若いころから筋金入りの酒飲みで、母はずっと泣かされてきた。今回だって、心配が半分、呆れが半分だったに違いない。
兄と顔を突き合わせながら、僕は苦笑いした。
これ、未来の姿かなぁ、と。
30年後の僕も、きっと同じだ
30年後の僕も、きっと酒好きのままなんだろう。
調子に乗って飲みまくって、飲み過ぎたと反省するのは次の日まで。少し時間がたったら、また何事もなかったように飲み始めるんだろう。
そして、たぶん最後の日にも酒を飲んでいる。
そんな映像が、妙にはっきり見えてしまった。
母の返事がすべてを知っていた
しばらくして、父は飲み過ぎ以外に異常なしということで、その夜のうちに帰宅。家でグデーッとしていると母から連絡が来て、僕もようやく胸をなで下ろした。
そこで母にLINEを送った。
「ノンアルで長生きしてもらいましょう」
すると、こう返ってきた。
「それは無理でしょうね。何日たったら飲みだすか………」
さすが僕の父である。
なんの反省もなく、また酒を飲み始めるのだろう。そこに呆れながらも、僕は妙に納得してしまった。
ああ、血はつながってるな、と。
30年後、調子こいて酒を飲んだ僕が、誰かに同じように心配されている気がする。
できれば救急車だけは勘弁してほしい。
とはいえ、そのときの僕もきっと、懲りずにグラスを持っているんだろうな。





