一生ものの服が欲しかった。

毎年、春と秋になると困ることがある。
いい上着がないんだ。
コートを着るには大袈裟。でも、夜帰るころには寒い。一枚で風を防いでくれて暖かく、それでいて室内で着ていても違和感のないジャケットを、ずっと探していた。
これが意外とないんだよね。
僕が愛用してきたのは、ユニクロの感動ジャケット。軽くて、値段も安くて、本当に優秀だと思う。ところが、化繊だからね。1年着るとテカテカし出して、急に安っぽさが前面に出てくる。
悪くない。むしろ、かなりいい。だけど、「これから先もずっと着ていきたい」と思える一枚にはなりきらない。
そこで僕は、一念発起した。
流行に左右されず、長持ちして、着れば着るほど味が出る。そんな一番いいシャツジャケットを買おうじゃないか、と。
感動ジャケット5枚分の壁
いろいろ調べるうちに、たどり着いたのがエルエルビーンだった。
ざっくり言うと、エルエルビーンはアメリカのアウトドア衣料ブランド。大自然の中でガシガシ使われても平気な服を、昔から真面目に作ってきた感じがある。
僕の心に刺さったのが、「シャミークロスシャツ」という名作だった。
シャミークロスとは鹿革のこと。と言っても、素材は鹿革ではなくコットン100%。鹿革みたいに分厚く、毛皮みたいに毛羽立っていて暖かいらしい。
そして、僕の心を撃ち抜いたのがここだった。
着れば着るほど風合いが増していく。一生ものの服として付き合っていける。
これだよ、これ。僕が欲しかったのは。
とはいえ、値段は感動ジャケットの2枚分。そこまでの価値が本当にあるのか、数日悩んだ。
シャツにそんな金額を出すのか。いや、出したとして、本当に元は取れるのか。そんなことを考えながら、Amazonの商品ページを何度も開いては閉じた。
それでも最後に背中を押したのは、ある確信だった。
これ、僕がジジイになっても着ていられるな、と。
シャミークロスシャツを着たまま、一緒に年を取っていく姿が見えたんだよね。そう思えた時点で、もう負けである。ポチッといった。
袋を破った瞬間に勝ちを確信

2日後に届いた。
色は大人っぽいエンジ色。サイズはジャパンフィットのM。ちなみに僕は169センチ69キロ、筋肉質の体型である。
袋を破った瞬間、これはいいかもしれんと思った。
まず、生地がいい。分厚い。なのに柔らかい。表面にはスエードみたいな毛羽立ちがあって、「えっ、これがコットンなの?」って驚いた。
なるほど。たしかに鹿革っぽい。防御力が高そうなのに、触り心地は妙にやさしい。
着てみると、袖と丈が少し長め。

エルエルビーンって全体にゆったりしてるんだよね。ネットには「洗うと2センチほど縮む」と書いてあったので、届いたばかりなのに、いきなり洗ってみることにした。
こういう時、妙に思い切りがいい(笑)
洗って乾かして、もう一度着てみる。

うん、ちょっとだけ縮んだ。
シャツとしてはまだゆったりしている。だけど、シャツジャケットとして羽織るなら、ちょうどいい感じ。
風を通さない。ただ、それがうれしい
さっそく外に着て歩いてみた。
その日は、風も穏やかで暖かかった。Tシャツの上に羽織るには絶好の日。こういう日にこそ、本当に使える服かどうかが分かる。
歩いてみると、これがいいんだ。
風を通さない。背中からじんわり暖かさが伝わってくる。コートみたいに大げさではないのに、ちゃんと守られている感じがする。
しかも、室内に入っても浮かない。
いかにも防寒着です、という顔をしていないから、そのまま着ていられる。ずっと求めていた「春秋のちょうどいい上着」に、ようやく出会えた気がした。
スモックみたいに生きていける服

そして、着ているうちに妙な記憶がよみがえってきた。
小学校の時に着ていた、黒い長袖のスモックである。
真夏以外は、ほぼ毎日。ボタンを何度付け替えてもらったか分からないくらいに着ていた。制服というより、もう肌みたいな感覚だったね。
あまりに当たり前すぎて、「上着を選ぶ」という発想すらなかった。休みの日にスモック以外の服を着ていくとなると、何を着ればいいのか分からなくて困ったこともあった。
シャミークロスシャツを着ていると、あの頃のスモックみたいに、「これ一枚あればなんとかなる」という安心感がある。
長く着られるとか、丈夫だとか、風合いが増すとか、もちろんそういう魅力もある。
だけど、僕にとって一番大きかったのは、「肌みたいに着られるかどうか」だったんだろうね。
シャミークロスシャツは、そんな一枚になりうる予感がする。
一生もののはずが、もう次が欲しい
この一枚で生きていこう。
そう思った。
……いや、思ったんだけどね。
色違いも欲しくなってきた(笑)
一生ものの一枚を手に入れたはずなのに、物欲は元気いっぱいである。こうしてクローゼットは今日も、はち切れんばかりだ。





