
その時、僕は悩んでいた。
今日の晩酌は何にしようかと。
晩酌の酒を選ぶ時間は、地味に楽しい。冷蔵庫の中を見るか。イオンに寄るか。酒屋まで歩くか。たったそれだけのことなのに、その日の夜の気分が少し変わる。
何気なくXを見ていたら、大ニュースが飛び込んできた。
金虎酒造の「虎変(こへん) 大吟醸」が、全国新酒鑑評会で金賞を受賞したという。
虎変とは、「名古屋の新銘酒を造りたい」という思いから、金虎が革新の思いで生み出したお酒である。
そして全国新酒鑑評会は、日本で最も歴史と権威がある日本酒のコンテスト。
決まった。
我らが大曽根の誇り、金虎の快挙を祝して、今夜は虎変の大吟醸で乾杯しようではないか。
金賞酒が、駅前の酒屋で買える街

向かったのは、大曽根駅の目の前。オゾンアベニューにある酒屋「佐野屋」。
金虎のお酒が常備されている、僕の晩酌を支えてくれるお店である。
冷蔵庫の中には、金色のラベルに身を包んだ虎変の大吟醸が鎮座していた。
一本取り出し、レジへと向かう。
手に入れたぜ。金賞受賞のお酒。
全国で評価されたお酒が、駅前の酒屋でこんなに気軽に手に入る。これ、大曽根に住んでいる人間の特権ではないだろうか。
虎変の瓶を手に、家へ歩く。
僕は大曽根民である喜びを、じわじわとかみしめていた。
金色のラベルに、白虎が構える

夜になり、晩酌の時間になった。
まずは瓶をじっくり眺める。
金箔のような煌びやかなラベル。そこに墨書で「虎変」とある。両脇には、力強く構える白虎の姿。

華やかでありながら、気品と落ち着きもある。
金虎の自信を、静かに見せつけられているようだった。
グラスに注ぐ。

わずかに黄金色がかった、澄んだ輝き。
ふんわりと漂う甘さ。バナナやマンゴーのようなトロピカルフルーツ的ではあるが、もう一段深みのある香りがする。
ラベルは金色。名前は虎変。しかも大吟醸で金賞受賞。
これは、華やかにドカンと来る酒なのではないか。
そんなことを思いながら、グイッと一口。
あら。

予想に反して、大吟醸らしい華やかな甘みは控えめだった。
甘みの余韻を引きずることなく、日本酒らしい旨みやキレが、そよ風のように吹いてくる。
派手に前へ出てくる酒ではない。
甘み、旨み、キレがきれいに整っていて、全体の印象はとても抑制的。
「突出した何か」で勝負するのではなく、日本酒としての完成度を突き詰めて醸されたお酒なのだと感じた。
これが金賞のお酒か。
しみじみとグラスを傾ける。
カツオのたたきと、虎変のキレ

虎変大吟醸のお供には、カツオのたたきを用意した。
強い味のするカツオにも負けない。ぶつかり合うというより、高め合うような組み合わせだった。カツオの濃い旨みを受け止めながら、虎変のキレがすっと後味を整えてくれる。
このお酒なら、いろいろな料理とうまくやっていけそうだ。
主張しすぎない。それでいて、芯がある。飲みながら、少しずつわかってくるタイプのお酒だった。
僕にも一度だけ、金賞の夜があった

実は去年、僕は生まれて初めて「金賞」というものをいただいた。
会社の提案コンクールだった。
どこかで聞きかじったようなネタを、「どうせ無理やろ。上司が出せって言うから出しとくか」くらいの気分で出した。
それが、なぜか金賞。
賞状と金一封を偉いさんからいただくという、人生最初で最後かもしれない晴れ舞台である。
いい加減に生きてきた自分にとって、唯一の勲章と言っていい去年の金賞。
金一封は気前よく妻に渡して、鼻高々だったのを覚えている。

そんな晴れがましい金賞。金虎はコロナ禍を除き、毎年なにかしら金賞を受賞している。
もちろん、僕の会社の提案コンクールとは重みがまるで違う。全国の酒蔵がしのぎを削る中で評価される金賞である。
大曽根の民としては、誇らしい気持ちに包まれる。
近所に、こんな酒蔵がある。駅前の酒屋で、そのお酒を買える。家に帰って、グラスに注いで、しみじみ飲める。
それだけで、今日の晩酌は特別な夜になった。
来年の吉報も楽しみにしながら、虎変の大吟醸を美味しくいただいた。
金虎がある大曽根。
ここ以外に住む場所なんて、もう考えられない。
◆虎変が飲みたいから大曽根に住む:金虎の「虎変 特別純米」がある夜。大曽根に住む理由がまたひとつ増えた





