もう黒でいいんじゃない?──万年筆インク「極黒」に魂を奪われた夜

2025-08-06

気づいたら、黒に黒を重ねていた。
黒の上に、さらに黒。
これ以上の黒さなんて、あるわけないと思ってたのに──。

万年筆インクの沼って、いったいどこまで深いんだろう。

必要ないとわかっていても、なぜか気になる名前

こないだ「蒼墨(そうぼく)」を使い始めたばかりのはずの僕の手に、気づけば「極黒(きわぐろ)」があった。
え、早くない?

正直に言うと、「ふでDEまんねん」に付属していたセーラー純正の水性黒インクは、文句のつけようがなかった。
黒い。
もう、どうやっても黒い。

光を反射しない、濁りもない、絶対に妥協しないタイプの黒。
「黒」として完結していた。

だから、これ以上の黒なんて必要ない。
新しい黒インクなんて買う必要、1ミリもない。
……と、頭では思っていた。

それでも気になる名前は、夜を奪ってくる

でも、夜。
思い出してしまったんだ。「極黒(きわぐろ)」という名前。

極みの、黒。
気になって気になって、寝られない。
気づいたらAmazonの購入履歴に「極黒」のカートリッジ12本入りが追加されていた。
もう、負けたね。

初筆の衝撃──反射しない黒が語りかけてくる

ポストに届いたそのカートリッジを、そっと「ふでDEまんねん・40度モデル」にセット。
期待と不安が入り混じる中、最初の一筆。

……すごい。
光をいっさい跳ね返さない。
無反射。無慈悲。無二の黒。

「これが、“極みの黒”か……」
心の中で誰かがつぶやいた。

濃淡を無視する黒の強さに、逆に清々しくなる

濃く書いても黒い。
薄く書いても黒い。
ペンの角度を変えても、やっぱり黒い。

ここまで来ると、もう清々しい。
ふでDEまんねんの“濃淡が変わる”という最大の武器が、完全に押し潰されていた。

でも、それがいい。
まるで黒インクが、「遊ぶな。黙って描け」と言ってくるようで。
ターレンスのクリーム色の紙にも、びっくりするほど映える。

「もう……インクはこいつでよくない?」
そんな声が、また聞こえた。

唯一の欠点?乾きの遅さにちょっと戸惑う

じゃあ、完璧か?というと、そうでもない。
たとえば乾きの遅さ。
書いてすぐに触ると、にじむ。

「うーん、遅いな……」とつぶやいたあと、ふと気づく。

コピックのマルチライナーと比べてた。
そりゃそうだ。あれ、速乾命みたいなもんだし。
比較対象がスポーツカーと牛車くらい違う。反省。

真っ黒な幸福

それでも、“極黒”で描く時間は不思議と心地いい。
線の太さも、にじみも、主張の強さも、全部ひっくるめて「この線が僕だ」と思わせてくれる。

ああ、たぶんこの黒に飽きる頃には、きっとまた新しいインクをポチってるんだろうな。
黒の上に、別の黒を。
色のない世界で、なぜかどんどん感情が濃くなっていく。

沼の底は、今日も静かに美しい。

もう抜け出せない。
でも、ちょっと楽しい。

◆青のインクもいいもんです万年筆は意識高い系の大人の趣味だと思ってた。でも僕は今「蒼墨」でムラを描いている

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