毎月第2、第3金曜日は己書の日。僕は、幸座(講座)が開かれるオズアベニュー会館の2階へと階段を上っていった。
今日は、ちょっと事情があった。
夕方から仕事。つまり、己書に没頭しすぎるわけにはいかない。遅れないように、今日は“早く描き上げる”ことがテーマだった。
一目惚れしたネコちゃんとの再会

今回選んだお題は、4匹のネコちゃん。
ラフに描かれた線。ざっくりとにじませた水彩。なんとなく、早く描けそうな気がしたんだよね。
実は、このネコちゃん……。
見覚えがある。
いや、見覚えというより、恋していたのかな。
2ヶ月ほど前まで幸座の会場だった「喫茶はじまり」に飾られていた先生のネコちゃんたちだった。
切れ長の目の美人ネコ。
誘惑するようでもあり、どこか興味なさげでもある。なんとも言えないミステリアスな表情。
僕はあのネコちゃんに一目惚れして、己書の体験レッスンを申し込んだのである。
その話を先生にすると、「この中の一匹ですよ」とのこと。
あのネコちゃんを、自分の手で描ける。
そう思ったら、ちょっと気持ちが高鳴っていた。
つぶれたおまんじゅう猫、爆誕

実際にハガキへ描いていく。
……ところが、これが難しい。
先生のネコちゃんは、目元が先生そっくりの美人さん。
僕が描くと、つぶれたおまんじゅうに、殺人鬼みたいな目を持った奇怪な化け物になってしまう。
こういうラフに見える絵って、描く人が出るんだと思う。
なるほど。僕そっくりである(笑)
補助線ひとつで、急にネコになる

苦戦していると、先生からアドバイスをいただいた。
「補助線を書いておくと、バランスよくなりますよ」
忘れていた。
人の顔もネコちゃんも同じ。パーツの配置が大事なのだ。補助線を書いてから目鼻を置いていく。
すると、急にネコっぽくなった。
可愛く見えるバランスというのも、なんとなく見えてくる。
さすが先生。あっさりと問題を片付けてくれた。
水彩のにじみは、思ったより手ごわい

続いて、水彩。
ざっくり色をにじませるだけだから、簡単そうに見える。
……そう思っていた。
透明な水をハガキに含ませ、その上に色を置く。
ところが、思ったようなグラデーションにならない。色が広がりすぎたり、濃さが偏ったり。
試行錯誤を繰り返し、4匹目のネコちゃんになって、ようやく少しコツが見えてきた。
濃い色のエリアを狭くして、薄い色を広めに置く。
そうすると、いい感じにグラデーションっぽくなる。
なるほど。水彩って、にじみに任せるだけじゃないんだ。
宝石の瞳には、まだ届かない

最後は目の中。
黄色と緑で、宝石みたいな輝きを出したかった。
いい感じのグラデーションに……。
なりませんでした(笑)
先生からは、「これが上手く描けると、水彩は楽しくなりますよ」とのお言葉。
これ、完全に伸び代ですね。
最後にミリペンで黒目を描き込む。
すると不思議なことに、急にネコちゃんが生き生きとし始めた。
それまでは、「本当にネコちゃんを描いているのだろうか」と不安だったくらいだからね。
ラフに見える絵ほど、コツの塊だった

描き終わると、先生がもうひとつ教えてくれた。
「ギザギザの線って、ランダムに描いてるつもりでも、みんな同じ太さになっちゃうんですよ。意外とランダムに描くのって難しいんです」
なるほど。
自分のネコちゃんを見て、「なんかギザギザがつまらないな」と思っていた理由がわかった。
簡単そうだから。
そんな軽い理由で選んだネコちゃん。
ところが、ラフに見える絵ほど、ほんの少しの違いで表情がガラッと変わる。コツの塊だった。
早く描くつもりが、もっと描きたくなった
さて。
今夜から、一目惚れしたネコちゃんたちを描こう。あの美人ネコを、自分の手で生み出したい。
描き終えたハガキを手に、僕はすっかり燃えていた。
……あっ、いけない。仕事のことを忘れていた(笑)
「ちょっと遅れます」
職場に連絡を入れ、僕はオズアベニュー会館の階段を降りていった。
◆己書四級になりました:己書四級にレベルアップした日、アートな文字に心を奪われた




