いよいよ地図の清書に取りかかろうとしていた。
ペンを握る手がちょっとだけ震えていたのは、緊張からじゃない。
あれ?これ…本当に、大曽根の魅力を伝えられてるのか?
完成間近の地図を前に、ふとそんな疑問が湧いた。
それはまるで、夢中で走っていたのにゴールテープが見えなくなったような、不思議な手応えのなさだった。
頭の中でグルグルと問いが巡る。
もっと分かりやすいほうがいいんじゃないか?
観光スポットって、ちゃんと載せたっけ?
そもそもこれは、誰かの心を動かす地図になっているのか?
ひとことが、地図の方角を変えた。
迷っていたとき、思い出した言葉があった。
それは、地図を置かせてもらえるようお願いしに行った、あの喫茶店の方との会話。
その方は、大曽根商店街と徳川園の歴史的なつながりについて、丁寧に語ってくれた。

その言葉が、頭の中でカチッと音を立てた気がした。
あれだ。そうだ。あれしかない。
――方針変更、決定。
地図を、徳川園周遊プランに変える。
大曽根商店街からスタートして、徳川園を巡って、歩き疲れたらまた喫茶店に帰ってくる。
そんな「ちょっと歩いて、ちょっとほっとする」ような地図を描いてみようと思った。
ひとつのテーマでまとめれば、伝えたい魅力もグッと絞り込める。
行き先が明確なら、地図もすっきりして、迷わず手に取ってもらえるはず。
思いついた瞬間、気持ちがふわっと軽くなった。
いてもたってもいられなくなって、すぐに徳川園へ向かった。
見れば見るほど、面白いじゃないか。
あらためて徳川園を歩いてみると、気づきがあふれ出してくる。
黒門の屋根の上には、ちょこんとカメの瓦。

園内の散策路の石は、人間よりでかい巨石がゴロゴロ。
周囲を囲む塀には、木の壁、しっくい、瓦と3種類があることが分かった。
3つの壁、それぞれが全然違うデザイン。なぜ、こんなにバラバラなのか探究心が湧いてきた。

ここ、ほんとに都会の真ん中なのか?
足を止めて、目を凝らして、手帳に小ネタを書きとめていく。まるで宝探しだ。
たった数百メートルの間に、ワクワクがいくつも詰まってる。
この発見を、全部、地図に詰め込みたくなった。
地図の半分は、物語のかけら。

今回の地図の構成は、半分が徳川園の“ちょっと通になれる小ネタ”。
もう半分が、大曽根商店街の魅力。
その二つをつなぐのは、ウォーキングコース仕立てのストーリー。
地図を片手に歩けば、ちょっとした旅が始まるような――
そんな一枚を目指して、再スタートを切った。
やり直し? いや、これは発火点だ。
最初に作った地図も、決して無駄じゃなかった。
あれを描いたからこそ、いまの地図にたどり着けた。
描いて、悩んで、歩いて、気づいた。
それ全部が、この地図の芯になっている。
さあ、もう一度描こう。
この地図を手にした誰かが、ふらっと歩き出してくれるその日まで。
大曽根が、ちょっと楽しい街になる。
そんな未来を想像しながら、今日もまた、ペンを握る。





