20年前の夜のことは、今でもくっきり思い出せる。
あの日、僕の世界は音もなくひっくり返った。
仕事帰りに立ち寄ったコンビニで、ズラリと並んだ見慣れない日本酒たち。
北秋田、越後桜、高山…そして「可。(べし)」。

おっ? なんだこのラインアップ…
何気なく近くのコンビニにも入ったら、そこでも同じ顔ぶれが待ち構えていた。
試しにさらにもう一軒。
どの店でも、同じ日本酒たちが「ようこそ」と言わんばかりに並んでる。
狐につままれたような気分。
でも、その奇妙さにワクワクが止まらなかった。
結局、「可。」を一本抱えて帰った。
今思えば、あれが運命の始まりだったんだ。
古臭いイメージをぶち壊した一杯

後で知った話だけど、日本酒の流通が変わって、全国の個性的な酒がコンビニでも手に入るようになった。
その日から、僕の酒ライフが始まったと言っていい。
それまでの僕にとって日本酒は、昭和の演歌が流れる居酒屋の片隅で、頑固おやじが飲む渋い酒。
でも、知らなかった。
日本酒って、こんなに自由で、軽やかで、フレッシュで、かっこよくて、しかもキラキラしてるんだ。

そのイメージを根こそぎ壊してくれたのが「可。」だった。
愛知が誇る関谷醸造、蓬莱泉ブランドの一本だ。
初めて飲んだ瞬間、「もしかして、日本酒って世界で一番美味しいお酒なんじゃないか…」と鳥肌が立った。
変わらない師匠とともに

そんな思い出の詰まった「可。」を、久しぶりに晩酌の相棒に連れてきた。
ラベルには、あの頃から変わらない謎の師匠。
目が合うと、
「おい、仕事で疲れたら、これ飲むんだぞ」
って言われてる気がして、ついつい連れて帰ってきてしまう(笑)
スペックとしては特別純米酒。
けど、それ以上に「一緒に食卓を囲む仲間」みたいな存在感がある。
香り、色、そして一口の衝撃

いざ、開栓。
キャップをひねった瞬間、ふわっと漂う酸味とやさしいお米の香り。
透き通ったグラスの中で、まるで月明かりのように光る。
とろみはなく、すっきりと澄み切った表情。

一口含む。
最初の印象はとにかく、やわらかい。
爽やかでやさしい酸味がふわっと舌を包み、そのあとに「旨い!」って声が思わず漏れる。米の極上な旨みがじわじわ広がってくるんだよね。
舌の上で広がる波紋みたいに、静かだけど確かに届く美味しさ。
これだよ、これ。
心に響く「可。」の味

僕の中の「日本酒は、こうあってほしい」という理想そのもの。
疲れた夜、心に沁みる音楽みたいに寄り添ってくれる。
うまいご飯に合わせてゆっくり飲むと、幸せがひとつずつ積み重なる感じ。

関谷醸造さんがずっと守ってくれている、この味。この想い。
もう感謝しかない。
この酒がいつでも手に入る今の僕は、素晴らしい時代に生きていると思う。
20年前の僕に教えてやりたい。
「おまえ、20年後も『可。』を飲んでヒャーヒャー笑ってるぞ」って。
弁当と枝豆、至福のペアリング


この日は、幕の内弁当をお供に。
おかずを一口、可。を一口。
枝豆の漬け物とも合わせてみたら…あまりの相性の良さに、グラスが止まらなくなる。
「可。」に合わない料理なんてあるんだろうか…と考えながら、気づけばちょっと飲みすぎてた。
まぁ、いいじゃないか。師匠もきっとニヤニヤしながら見てるはず。






