
ついに、30年越しの思いを実現することができた。
昨日、ランニング中に湧いてくるアイデアを書き留めるノートを手に入れた。しかも、書くためのストレスを極限まで減らすために、ペンを一体化させ、ブックマークまで付けておく方法も編み出した。
ロルバーンミニというメモ帳である。
「滑走路」という名前もいい。旅の始まりみたいで、なんだか僕らしい気がしている。
さっそく、新しい相棒をトレランザックの胸ポケットに入れて走り出した。
今日から僕は、走りながら無限のアイデアを手にできる。
そんな気分だった。
30年越しで追いかけてきたもの
実際、ここにたどり着くまで30年かかっている。
昔は、ペンだけ持って走っていたこともあった。何か思いついたら、左手の甲に書く。冬はまだいい。汗もあまり出ないし、なんとか読める。
問題は夏だ。
汗でインクが流れて、手の甲が黒くなる。何を書いたのかはもう分からない。シャワーを浴びても落ちなくて、なんだか中途半端なタトゥーみたいになる。アイデアを捕まえたいだけなのに、なぜか身体に刻んでしまっている。
30年の間、決定版がなかったのは、ノートが見つからなかったからだけじゃない。僕の類稀なる忘却力も大きい。
なぜなら、面白いことを思いついたことすら、走り終わる頃にはきれいさっぱり忘れてるからね。
つまり、この30年は「どうしたらアイデアを逃さずに済むのか」を追い続けた年月でもあったわけだ。
30年分の執念を詰め込んだ完成形

そして、ついに完成した。
30年間温め続けた、ランニング用ノートの完成形である。
選んだのは、ロルバーンミニ。そしてペンは、ゼブラの「SL-F1 mini」。手帳用の小さなペンなんだけど、これがまた実にいい。クリップにヒモをつけて、サッと取り出せるようにしてある。さらに、最新のページに一瞬でアクセスできるようにブックマークも装着済みだ。
完璧である。
30年分の執念が詰まっている。
ここまでノートにこだわるというのは、裏を返せば、自分の記憶力がまるで役に立たないと認めたってことでもあるんだけどね(笑)
それでもいい。記憶力がダメなら、道具で勝負すればいい。
そういう発想にたどり着いたのも、年の功ってやつかもしれない。
まずは走りながら、相棒の実力を試してみる

いつもの矢田川は風もなく穏やかだった。空は雲に覆われている。天気予報では夜から雨らしい。つまり、絶好のランニング日和である。
胸ポケットに入れたロルバーンミニは揺れもしない。おとなしく僕のランニングに付き合ってくれている。
なかなか、いい子じゃん。
用もないのに取り出して、何か書いてみる。

ちょうど指の関節に収まるようなサイズ感が実にいい。大きすぎると手に余って邪魔になる。小さければいいって話でもない。小さすぎると、ちょっと書いただけでページをめくることになる。それもまためんどくさい。
手に余らず、そこそこ書けて、ザックの胸ポケットの中でも揺れない。
このバランスが絶妙なんだよね。

ペンが一体化しているのも気持ちがいい。
ヒモのおかげで取り出しやすいし、ブックマークを指に引っかけてノートをぶん回すように開けば、その瞬間に最新ページへ飛べる。しかも、ブックマークはリングに引っかけてあるから落ちることもない。

完璧だ。
ほんと、なぜロルバーンはこのペンとセットで売らないのかと思うくらい収まりがいい。
試しに何か書いてみたくなった。とはいえ、特に名案が浮かんでいたわけでもない。とりあえず、ラジオで話していた内容をそのままメモしてみた。
あとで見返したら、何が言いたいのか全然分からなかった(笑)
それでもよかった。書くという行為そのものが軽い。ストレスがない。思考の流れを邪魔しない。30年越しの工夫は、ちゃんと機能している。
さあ来いと思った日に限って、何も来ない

さあ、準備は完璧だ。
あとは走りながら、アイデアが湧いてくるのを待てばいい。
……ところが、待てど暮らせど来ない。
いつもなら、ゆっくり走っていると何かしらのイメージが湧いてくる。頭の中に新しい世界がじわっと作られていくような、あの感じだ。記事の書き出しだったり、タイトルの断片だったり、妙な比喩だったり、何かしらが引っかかってくる。
今日はそれがまるでない。

いや、正確には、言葉は出てくる。
出てくるんだけど、全部うっすい。
「空が曇ってるね」
「風がなくて気持ちいいね」
その程度である。
しかも、そういう平たい言葉が頭に浮かぶ。違う違う、こういうのじゃないと抑え込もうとする。すると、その「違う違う」までまた言葉になる。さらに、それをどうにかしようとして、また言葉になる。
ずっと、その無限ループ。
頭の中で何かが膨らんでいく感じじゃない。言葉だけが表面をくるくる回っていて、どこにも潜っていかないんだよね。

せっかくのロルバーンミニも出番がない。
無理やり取り出して、何か書いてみる。
そして書けたのが、「曇ってた」程度。
がっくりである。
走り続けた。いつもより1.5倍となる90分間のランニング。それでも、大物は一匹も釣れなかった。
やっぱり、こうなるんだよね(笑)
道具は完成した。あとは来るべき日を待つだけ

甘かった。
道具が完璧になったら、アイデアまで勝手に湧いてくるような気がしていた。もちろん、そんなに都合よくはいかない。
これって、釣りと一緒なのかもしれないね。
釣りたいオーラ全開だと全然釣れない、なんて話があるじゃない。「どうぞエサを差し上げます」くらいの無欲さで竿を垂らしていないと、殺気が魚に伝わってしまうらしい。
たぶん、アイデアも同じなんだろう。
僕の「さあ来い!今日こそ来い!」という殺気を察して、どこかへ逃げていったに違いない。
とはいえ、収穫がゼロだったわけじゃない。
ロルバーンミニをランニング用ノートにする作戦は、見事に成功した。胸ポケットで暴れない。取り出しやすい。すぐ開ける。すぐ書ける。必要な機能は、全部生きていた。
つまり、来るべきものを迎える準備は整ったってことだ。
アイデアは、来るべき時に必ず来る。
今日は来ない日だった。ただそれだけ。
明日がその日なら、きっと来る。
その瞬間を逃さないために、準備だけは怠らずにしておこうと思う。
30年越しで、ようやくそこまでは辿り着いたのだから。




