
桜の季節も終わるころ、大曽根商店街を中心としたエリアで面白いイベントが始まっていた。
その名も、「さくらポ祭り」。
商店街の西端にある「さくらギャラリー」の展示に合わせて、近隣の飲食店5店によるコラボ企画である。
飲食店で食事をして引き換え券をもらい、その券を持ってさくらギャラリーへ行き商品を買うと、その飲食店ごとの特徴をデザインした缶バッジをゲットできるというもの。
これ、なかなか素敵なことを思いつくよね。
行きつけの店がくれた、次の入口

ギャラリーって、正直そんなに行くことがない。
だって、ギャラリーに置いてあるアートって基本、食べられないじゃん(笑)
アートは常日頃から必要としているものではないし、ご飯みたいに「今日はあそこへ行こう」と自然に向かうものでもない。だから気になっていても、意外と足が向かないんだよね。
そんな場所に行くきっかけを、行きつけの店がくれる。それが、この企画のいいところだと思った。
僕が引き換え券をもらったのは、「喫茶はじまり」だった。立ち飲みをさせてもらったときに、「こんなの始まってますよ」と引き換え券をいただいた。
この一言がよかった。
イベントの情報を見つけた、というより、いつもの店から「ほら、次はあっちへ行ってみたら?」と軽く背中を押してもらった感じ。こういう渡され方をすると、不思議と行ってみたくなる。
僕もその場で、「缶バッジ、コンプリートしてみようかな」なんて思ってしまった。
さっそく引き換え券を持って、さくらギャラリーへ足を運んでみた。
入りにくい場所が、少しやわらかくなった

商店街の入り口を華やかに彩るような桜色のギャラリー。
入る直前にその外観を写真に撮っていたら、ギャラリーの方が出てきて、「あら、いらっしゃい、どうぞ」と声をかけてくれた。
この瞬間、ぐっと入りやすくなった。
もともとギャラリーって、何となく自分から扉を開けるには少し勇気がいる場所。けれど、向こうからそうやって迎え入れてもらえると、空気が一気にやわらかくなる。
そのまま半地下へと続く階段を降りていくと、ギャラリーには先客がいた。しかも、なんと缶バッジのコンプリートを済ませたばかりの方だった。
大曽根商店街愛好家は好奇心の強い人が多いと思っていたけれど、まさにその通りだね。
ギャラリーの方と、そのコンプリートした方と、僕。その場で自然と会話が始まった。
販売もしている展示物について話を聞いてみると、200円の缶バッジから、なんと28万円するネコのオブジェまで並んでいた。

28万円のネコ。
その時点ですでに強いんだけど、このオブジェ、触るのは厳禁らしい。しかも、ギャラリーの方も「何の材質で作られてるのか分からない」とのこと。
さらに、同じ作家さんの作品には、絵の中に鏡がはめこまれていて、自分の顔を入れられるアートまであった。
缶バッジを引き換えに来ただけのつもりが、急にアートの世界へと引き込まれていく感じがした。

缶バッジをもらいに来ただけだったのに
そういえばと思い出した。
去年の夏、「推しにゃんみっけ展」をしていたとき。買おうか買うまいか迷った「王族のネコ」の絵があった。あれを描いていた方の作品だった。
その方はとても器用らしく、寄木細工の手法でイチゴのイヤリングも作っていた。しかもそのイヤリング、色は塗っていない。木の色だけでイチゴの色合いを再現しているという。

「才能の無駄遣いだよ」
なんてギャラリーの方が笑っていたけれど、いやいや、そういう妙にすごい人が大曽根の近所にもいるっていうのが、また面白いんだよね。
さすがに28万円はアレなので、僕は缶バッジをいくつか買って、喫茶はじまりの缶バッジを引き換えてもらうことにした。

それだけでも十分楽しかった。
喫茶はじまりであの一枚をもらっていなかったら、たぶん今日はここまで来ていない。そう思うと、この企画の面白さがよく分かる。
行きつけの店が、発見の入り口になる。
しかも、ただ場所が移るだけでは終わらない。その先で人と話して、知らなかった作品に出会って、街の中にまだ見えていなかった面白さが見えてくる。
次は、まつ葉へ行きたくなった

ギャラリーの壁には、参加5店の地図と、おすすめメニューや店の紹介が貼られていた。
お店についてあれこれ面白い話を聞いていると、耳寄りな情報まで入ってきた。
この企画に参加しているお好み焼き屋の「まつ葉」について。
おすすめは、「モスラ焼き」。

モスラ焼き? あの怪獣モスラだよね?
一体何なのか想像もつかない。壁に貼られていた写真を見ると、玉子を使っているのか、黄色と白が混ざったような色合いだった。
「一度、食べてみるといいですよ」
教えてくれたのはそこまで。どうやら固く口止めされているみたい。
まつ葉にはしょっちゅう通っているのに、そんなメニューがあるとは知らなかったよ。
ここでもまた、入り口がひとつ増えた。
喫茶はじまりでもらった券が、さくらギャラリーへつながった。
さくらギャラリーへ行ったら、今度はまつ葉の知らなかったメニューにつながった。
商店街は、入り口が変わると景色も変わる

商店街って、こういう連鎖が面白いんだと思う。
知っているつもりの場所でも、入り口が変わるだけで、発見がある。
よく通う店があるからこそ、その先の別の扉が開くこともある。
そんな、さくらギャラリーでのゆったりとした午後。大曽根商店街って、やっぱり奥が深い。
そしてその奥行きは、いつもの店の延長線上に、ふいに現れるのだと思った。
◆作家さんのこだわりを見せられるとついつい……:家中の壁一面に貼りましょう!大曽根商店街「さくらギャラリー」でカレンダー展!





