
ちょっと想像してほしい。時が止まった市場が、ある日、世界の味が集まるマーケットへと生まれ変わったら?
黒川駅の近く、堀川ぞいから住宅街に入ったところに、赤茶けた廃墟のような建物 がある。
「金城市場」
僕の記憶では、ここはもう終わった場所だった。
錆びついた外壁、はがれかけた看板、人の気配すらしない。
完全に「時が止まった建物」 だった。
ところが── その日は違った。
人!人!人!!!

「おいおい、何だこれ……?」
ランニングの途中でたまたま通りかかった僕は、思わず足を止めた。
事故か?事件か?それとも、テレビの取材か?
いや、違う。
よく見ると、金城市場の壁には ピンク色のポスター が貼られていた。

「SUKIYAKI──世界のごはんと雑貨」
どうやら、この金城市場で グルメイベント が開催されているらしい。
それにしても、まるでフェスのようなにぎわい。市場の周りにはキッチンカーが並び、近くの喫茶店でも食べ歩きができるみたいだ。

……これは、のぞいてみるしかない。
入場料は300円。

受け付けの前に行列ができていた。
「よし、行ってみるか」
小銭を払い、ランニング途中の汗をふきながら、僕は市場の中へ足を踏み入れた──。
リトルリトルワールド、開幕

中に入った瞬間、異世界だった。
目の前には、世界の市場 が広がっていた。
屋根から吊るされた カラフルな紙飾り、屋台から漂う スパイスと焼き菓子の香り、たくさんの人たちが楽しげに語り合う声。

五感を刺激する混沌とした熱気。
この場にいるだけで、まるで世界中を旅しているような気分になってくる。
そして目に飛び込んできたのは、ずらりと並んだ 異国の屋台たち。

中華、インド、トルコ、ガンビア、モンゴル、メキシコ、スコーン、おにぎり、おしゃれな洋食、アイスクリーム……!
見渡す限り、美味しそうなものしかない。
しかも、普段ならなかなか食べられない料理ばかり。
「これはもう……冒険するしかないな」
アフリカの西の端「ガンビア」へ飛ぶ

選んだのは、ガンビアの「ドモダライス」。
「ピーナッツバターのシチューをご飯にかけた料理」とのこと。
聞いただけでは味の想像がつかない。でも、だからこそ食べてみたい。
ブースに行くと、ガンビアの方らしい店員さんが「ジェリージェフ!」と声をかけてくれた。
どうやら「ありがとう」という意味らしい。

注文をすませ、手渡されたプレート。
──湯気がふわっと立ちのぼる。
鮮やかなオレンジ色のシチューが、ご飯にとろりとからむ。
ピーナッツバターの甘くて香ばしい香りが、ふわっと鼻をくすぐる。
「これは、期待できるぞ……!」
未知なる味の冒険へ
スプーンを、口に運ぶ。
──やさしい。
カレーのようなスパイスの刺激はなく、むしろほんのり甘い。
野菜がたっぷり煮込まれたような深みのある味わい。
そして、ピーナッツバターのまろやかさがじんわり広がる。

カレーに似てると思った?いや、全然違う。
どちらかというと、異国の家庭料理の温もり を感じる。
これは、じっくり味わうべき料理だった。
だが、ランニング中の空腹に勝てるはずもなく、ものの数分で完食。
お皿を返すとき、僕も店員さんに「ジェリージェフ!」と声をかけた。すると、店員さんも満面の笑みで「ジェリージェフ!」。
うん、最高の異文化体験だ。
そして、トルコへ飛んだ
市場の熱気で火照った体。
ここで冷たいものを──
目についたのは、「エフェス」というトルコのビール。

一本注文し、喉に流し込む。
「クゥゥゥ!!!」
南国っぽい、スッキリとした味わい。東南アジアのビールに近い感じで、グイグイ飲める。
異国料理を食べ、トルコのビールを飲みながら、異国の雑貨に囲まれる。
✅ まさに「リトルリトルワールド」。
金城市場の奇跡──そして僕は次回を誓う
かつて、ここは「取り壊されるのを待つだけの市場」だったのだろう。
でも、今ここには人が集まり、笑い声が響き、異国の料理が並び、熱気が満ちている。

人は、美味しいものを求め、にぎわいを求め、そして熱気を求める生き物なのかもしれない。
人が集まり、人が人を呼び、そして美味しいものまでもが吸い寄せられるように並んでいく。
そうか、この熱気は偶然じゃない。

金城市場のグルメイベントは、僕が知らなかっただけで、ずっと前から開催されていたらしい。
美味しいものを食べ、ビールを飲み、世界の文化を感じる。
でも、それ以上に、僕がここで受け取ったのは 「人の熱気」 だった。
「次回のSUKIYAKIは……全力で楽しむ体勢で来るぞ」
ビールを片手に(笑)。





