
コーヒーの湯気がふわりと立ちのぼる。
耳をすませば、隣の席から女性2人の声が聞こえてきた。
👩🏻 「ネイル、新しくしたの?」
👩🦰 「そうそう、やっぱりネイルしてると上がるよね。書類とか渡すときに強くなった感じがするし」
—— 強くなる?
思わず、手元のカップを持つ指を見た。

ザラついた爪。光沢ゼロ。まるで長年放置された革靴のように、くすんでいる。
……いや、これはもう、カッサカサだ。
「ま、年相応って言われたら、それまでなんだけどね(笑)」
ひとりごちながら、ある記憶がフラッシュバックした。
「爪を磨いて、男も磨こう」
若かりしころ、妙に色気づいて買ったガラス製の爪やすり。
確か、あの引き出しの奥に眠っているはず——。
思いついたら即実行。それが、僕の流儀だ

家に帰り、ガタガタと引き出しを探る。
久しぶりに陽の目を見たガラス製の爪やすりは、昔のまま、控えめに光っていた。
指でなでると、細かい黒い点の目が繊細に刻まれているのがわかる。

「やすり」って削るものだと思ってたけど、こいつは違う。
「削る」んじゃなくて、「磨く」ためのもの。
ふっと息を吸い込む。
—— さあ、やるぞ。
「強くなる」って、こういうことかもしれない
爪やすりをやさしく動かす。
カリ、カリ、カリ……。
力を入れず、表面をすべらせるだけで、少しずつ光沢がよみがえっていく。

思い出した。
昔もこうやって、じっくり時間をかけて磨いてたっけ。
爪の白い粉が、細かく舞う。
僕はそれが飛び散らないよう、水場で洗い流しながら磨くようにしている。
磨き途中の爪はマダラ模様になって、人様にお見せできるようなものではないね(見せてるけど笑)。

1枚につき、約5分。全部で1時間くらい。
最初は時間がかかる。でも、一度しっかり磨いておけば、次からは1週間ごとに1枚数秒くらい軽くやすりをかけるだけでキラキラが保てる。
そう思えば、初めのひと手間も悪くない。
なんせズボラな性格だから、完璧主義とは無縁。
「なんとなくキラキラしてれば、それでいい」
そうして最後の1枚を仕上げたとき——。
爪は、電球の光を反射して、キラリと輝いていた。
「美しさ」と「強さ」は、イコールなのか?
爪を見て、ふと思った。
あの女性たちの言葉が、脳内でリフレインする。
「ネイルしてると、強くなった気がする」
……わかる気がする。

💡 爪が整うと、手先にスキがなくなる。
手元が美しくなると、無意識に堂々と振る舞える。
つまり——。
「僕は爪までしっかり手入れしてるけど、あなたはどう?」
そんなふうに、無言でマウントを取っている気さえする(笑)。
これは、確かに「強くなった」と言っていい。
走ることも、爪を磨くことも、根っこは同じ
「強くなった」って思う瞬間って、他にもあるんじゃないかな?
たとえば——。
僕の場合は、ランニングを例に出すよ。

最近お気に入りの BRINGのバスクシャツ を着て走るとき。
僕はちょっとだけ、「都会的なランナー」になった気がする。
背筋が伸びる。テンションが上がる。
そして、ランニングした日って、不思議とメンタルもブレないんだよね。
ちょっと嫌なことがあっても、こう思う。
「今日、走ったから一日丸もうけ。だから、何言われても、別に気にならないよ?」
☝️ 走ることで、心が整う。
☝️ 爪を磨けば、心が整う。
✅ もしかすると、「自分を整えること」=「自分を強くすること」 なのかもしれない。
そして今、僕はニヤニヤしている
カタッ、カタッ、カタッ……。
キーボードを打つたびに、爪がキラキラと光る。

そのたびに、心の中でひそかに思う。
「ほら、オレ、強くなったぜ?」
どんなに高価な宝石よりも、根源的な美しさを放つ爪の輝き。
……爪磨き、意外と奥が深いな(笑)。
「強くなる瞬間」、あなたにもある?
そういえば、あなたも 「これをすると、ちょっと強くなれる気がする」 って瞬間、ない?
新しい靴をはいたとき。
お気に入りのジャケットをはおったとき。
髪をセットしたとき。
「整えること」で、心がしゃんとする。
それが、「強くなる」ってことなのかもしれないね。
さて——。
今日も走るか。
それとも、もう一度、爪に磨きをかける?










